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2024年6月9日の投稿1件]

明るく静かな森の奥、少しばかりひらけた場所へ木製の長テーブルを置いた。
レース編みのクロス、海外で買ってきたテーブルランナー、子どものころ家にあったランチョンマットに、不器用な指で編んだら台形になってしまった毛糸の鍋敷き。
さまざまな布で天板を、木漏れ日を吸ってあたたかく分厚い天板を覆ったら、次にはところ狭しと食器を並べた。気に入りのマグ、ガラス製のデザートボウル、割れてしまった茶碗の片割れ、貰い物のグラスにスープ鉢、サラダの大皿、祭りの景品だった金魚鉢。
数はひとつだったり、対になっていたり、四人分であったりした。容れるものは決まっていなかったがありったけ並べた。

今日は結婚式なのだ。私と、まだ名前も知らない誰かの。

並べられた椅子のひとつ、静寂に腰を下ろして私は暫しまどろんだ。
高い梢から花冠が舞い降りて、ひんやりと優しい指のように額へかかった。待つことは苦痛でなかった。むしろ幸福といってもよかった、それによって定義することが許されるならば。

断片