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No.177, No.176, No.175, No.174, No.172, No.171, No.1697件]

子供が起きているあいだは疲れて休みたかったり少し離れたかったりするのだが、眠ってしまうとずっと抱きしめていたくなる。大きくなった。こんなにあっという間に、こんなに大きくなってしまって。

日記

参院選投開票日。投票率が55%を超えたところまでは見た。比例で入れた新進の若い党が一議席を獲得。日本人ファーストを唱える政党が躍進し、意外にも若い世代の支持を集めている模様。空中戦でキャッチーなことを言い続け、別の選択肢に乏しい選挙区に候補を擁立するなどした戦略の勝利なのだとは思うが、分断を煽る政党の躍進には心中暗雲。

日記

期日前投票(正確には不在者投票)に行きました。眠いピークの子供がぐずるかと懸念したもののおとなしくしていました。私は本当に未熟な人間で、子供を産んで初めて選挙が自分ごととして手の中に落ちてきた気がする。
期日前投票は、18日時点で2145万220人。20日の投開票が三連休の中日であることなどが影響していると見られる。だそう。

実際の投票率も上がっているといいのですが。排外主義や差別との戦いというような、あまりにもお粗末な争点に終始するとしたら残念。

夏休みに突入した子どもたちの様子や写真がXのタイムラインに流れてくる。計画的に持ち帰らなかった荷物やアサガオの植木鉢を抱えて汗だくの子、宿題もう終わったと宣言する子、夏休みに入ったのが嬉しくてずっと飛び跳ねている子。
あと数年経ったら我が子のこんな様子が見られるのかと思うと確かなときめきを感じる。
そして、どこへ連れていきどんなふうに宿題をサポートするか頭を悩ませる親御さんたちの姿。人生の二回目の夏休み、早く来ないかなあ。

日記

第173回芥川賞・直木賞はともに該当作なし。少し胸がざわつく夜。
難所。愛着を持てぬ小説作品での執筆の難所。ゼロから、いやマイナスから、それでも立ちあがろうとするのは、愛しているからではなく愛に息絶えないでいてほしいからか。
私はこの小説を愛していると心から言えたのは、結局最初の作品だけだったかもしれない。

転ぶのが上手になったおさなごと斎場から手をつないで帰る

転ぶときちゃんと前に出るおさなごの小さな手と手をつないで帰る

子の秋刀魚からわたをとってやりながら胎盤はきっと苦い味だろう

眠る子に無害な殺虫スプレーを撒く テレビでは爆撃の街

#短歌

日記

てがろぐの機能で、投稿をトップに固定表示するというものを見つけたのでショートカット用に記事No.171を作成して固定した。

運営

#Archive 投稿, 2020年7月15日
#掌編 「奇妙な友」

 土曜日に呼び鈴が鳴ったとき、私はすぐさま紅茶のカップを置くと、期待に胸をふくらませて立ちあがった。配達人が来たものと思ったのだ。数日前の仕事帰り、何の気なしに立ち寄った古書肆で私はある本を見つけ、自宅への配送を頼んでおいたのである。それは実に素晴らしい書物だと本好きのあいだではもっぱらの噂だったが、一方で大変な稀覯本でもあった。見つけることができたのは幸運だったというべきだろう。さて、奥の棚へ無造作に置いてあるのを見た瞬間に私は手を伸ばしていたが、引っぱりだしたその本は咄嗟に両腕で支えねばならないほど重かった。全ページが金属板でできているのかと思ったほどだ。おまけに、表紙はどれほど力を入れても開かなかった。悪戦苦闘している私の背後へ店主が来て、買わないなら置いてどこかへ行くようにとそっけなく言った。さらには、近くへ別の客が立っており、そわそわした様子で私の手にある本を窺っているではないか。それで私は、値段を確かめもせずに慌ただしく購入の意思を告げ、といっても持ち運びに耐えぬほど重かったので、配送を頼んで帰ってきたのである。
 ドアを開けてみるとしかし、訪れたのは配達人ではなかった。仕立ての良い三つ揃いを着こんだ紳士が、勝手に門扉を開けてドアの真ん前まで入りこんでおり、私を見ると親しげに片手を挙げて挨拶するのである。そして、あっけにとられた私が何か尋ねるいとまもなく、家の中へ上がりこんでくるではないか。勝手知ったる様子で居間へと進んでゆく相手の背を、私は慌てて追った。
「砂糖は結構」とその人物は、卓上に放置されていた私のティーカップを指して言った。大急ぎで紅茶を淹れ、ミルクピッチャーを添えて運んでゆくと、彼は私の猫を膝に乗せて撫でているところだった。猫は喉を鳴らしていた。
 カップを受けとると、彼は実に礼儀正しく礼を言い、ミルクを入れてかきまわした。そのあいだに私の猫はのっそりと相手の膝から下り、いつもの窓辺へ行って寝転んだ。
「失礼ですが」とやっとのことで私は言った。「どこかでお会いしたことが?」
 面識のない相手に家へ上がりこまれたばかりか、相手のペースにのせられてとっておきのダージリンまでふるまっていたことに今更ながら私は愕然とし、憤りを感じはじめていた。
 ところが、相手はあくまで愛想良く、悪びれもせずこう言った。「私は君の友人ではありませんか、ねえ?」
 私は相手の顔を見つめた。見つめたところで、依然知らない人間である。しかし穏やかな微笑をたたえて私の方を見ている。紅茶を一口飲み、香りを褒め、茶葉を選んだ私のセンスを褒める。初対面にもかかわらず、気難しい猫も懐いている。友人。どうもそうであったかもしれないという気がしはじめた。
 そこで私は自分にも新しく紅茶を淹れてきて、彼の向かいに腰を下ろした。猫が私の膝と彼の膝を行き来しながら喉を鳴らす。私たちは午後いっぱい、とりとめもない話をしながら過ごした。何を語らったのかは、彼が紅茶の礼を言って辞去した夕暮れ時にはもう思いだせなかった。だが、陽ざしに包まれ、幸福な午後であったことは間違いない。
 そんなわけで日曜日、再び呼び鈴が鳴ったとき、私はますます期待に胸をふくらませて立ちあがった。頼んでいた本が届いたのかもしれないし、友人がまた来てくれたのかもしれない。
 ドアを開けると、果たせるかな、昨日の人物が立っていた。ジーンズにトレーナーというラフな格好で、昨日はきっちり撫でつけられていた髪も額へ落ちかかっていた。彼は紙袋を小脇に抱えており、私の顔を見るとにっこりした。私も胸を弾ませて、友人を居間へと招き入れた。
 さっそく紅茶を淹れにゆこうとする私を彼はおしとどめ、自分の向かいに腰かけるよう勧めた。「君の欲しがっていたものを持ってきたんだよ!」と嬉しそうに彼は言った。贈り物を私が気に入ると確信した口調だった。それで私は一瞬、古書肆に配送を頼んでおいた本を、どういうわけかこの友人が預かってきたのだろうかと思ったのである。しかし、彼が紙袋から取りだしたのは当然ながら、例の本ではなかった。それどころか、今までに私が欲しいと思ったことなど一度もないような、奇妙な物体であった。私は曖昧に礼を言いながら受けとった。置物らしかった。礼儀上、贈り物の美点をいくつか挙げる必要があると考えた私は微笑を浮かべてその物体を眺めたが、褒める言葉がまったく思いつかないのである。置物はよどんだ黄土色で、カバになりかけのじゃがいものような形をしており、手触りも悪い。重さが中途半端なので文鎮にすらならなさそうだ。その上、なんだか嫌なにおいがする。しかし顔を上げると、友人は私の反応に期待して満面の笑みを浮かべているのである。「大切にします」仕方なくそう言うと、友人は嬉しそうに何度も頷いた。私は置物が意味もなく大きいことに気づき、どこに保管しようか頭を悩ませはじめていた。
 月曜日、私は朝から微熱があった。呼び鈴が鳴ったとき、それでもどうにかベッドから起きあがってドアを開けに行ったのは、とうとう本が届いたかもしれないと考えたためだ。配達人ではなかった。むさ苦しい格好の、全身から悪臭を漂わせた人物が立っていた。「やあ」と私の顔を見るなり相手はほほ笑んだ。そこで私は困惑しつつも、随分と様変わりしてしまった友人を居間へ招き入れた。
 居間の中央に仁王立ちした友人は、意地悪げに片眼をすがめて部屋の中を見まわしていた。私は、もらった置物を飾っていないことを思いだし、相手が気を悪くする前にと急いで声をかけた。「何か召し上がりませんか。お茶を淹れますよ」すると、彼はどこか横柄な印象を与える足取りで近づいてきて、食卓についた。ぼろぼろに裂けて垢の浮いた上着からナイフとフォークを取りだし、両手に構えて私を見た。私は、自分に微熱があるのを思いだしながら、皿に盛った軽食と紅茶のカップを用意し、運んでいった。彼はナイフの先でチーズやフルーツを突き刺して口に運び、一息で紅茶を飲み干し、また意地悪げな眼で私を睨んだ。私はキッチンへ引き返し、アフタヌーンティーのために用意してあったスコーンを温めた。ジャムとクロテッドクリームを添えて運んでゆくと、友人は私が背を向けて紅茶を淹れているあいだにそれらを食べ終え、振り向いたときにはテーブルクロスで口を拭いていた。母が刺繍をしたクロスである。唖然としている私の手からカップを奪うと、友人はまた一息にそれを飲み干し、ナイフとフォークを持ってじろりと私を見た。そこで私は足早にキッチンへ引き返し、震える手でベーコンを焼き、卵三つの目玉焼きを作り、胡桃のパンと干しぶどうと牛乳と共に持っていった。友人は私の手からそれらをひったくり、まとめてひと呑みにすると、あざ笑うような顔で私を見た。私はキッチンへ駆け戻り、冷蔵庫から取りだした全ての肉と魚を焼き、野菜を蒸し、果物を切って食卓へ運んだ。合間に黒ビールの壜を十八本と赤ワイン七本、白ワイン八本、タバスコ三本を運んだ。それから冷たいチキン、瓶詰めのオリーブ、オイルサーディンの缶、乾燥ラズベリー、マッシュルーム、バター、胡椒、製菓用ブランデーなど手当たり次第に運んでいったが、友人はつまらなさそうな顔をしながらそれらをことごとく平らげ、垢と無精髭に覆われた顔の中からぎらぎらと眼を光らせて私を睨んだ。とうとう食料庫が空になったとき、私は倒れそうになりながら友人の前へ出てゆき、振る舞うことのできるものがもうないということを告げた。すると友人は立ちあがってナイフとフォークをしまった。やっと帰ってくれるのかと胸をなで下ろしかけたとき、彼はやにわに居間のカーテンをひっつかんだ。そこから先はあっという間で、何より私は熱があったのであり、何が何だか後になってみるとよく思いだせないのだ。しかし、順番は定かでないが、友人は力任せにカーテンレールをもぎとり、ソファを引き裂いて詰め物を飛びださせ、絨毯を丸めて窓から放りだし、家中のガラスをたたき割った。少なくともグラス七個、皿三十一枚、花瓶一つ、空き瓶四十七本を割り、額縁を階段から投げ落とし、あらゆる棚の抽斗を抜いて中身を床へぶちまけ、記念の写真立てを壁に投げつけ、グランドピアノの上でとびはねた。表彰状や楯がテレビの画面に突き刺さり、カセットテープや手紙やアルバムがコンロの上で色とりどりの煙を上げた。どうすることもできないまま、床に横たわって友人の所業を見ているうち、熱が上がってきたのが感じられた。そして私は、割れたガラス窓から風が吹きこむ居間の中心で、気を失うように眠りこんでしまったのである。
 目覚めたとき、朝の光がさしこむ家の中に友人の姿はなかった。どこに隠れていたのか、猫がのっそりと姿を現した。大急ぎでガラスの破片を掃きだしたあと、私は猫を膝に抱えてしばし呆然としていた。午後になってやっと気を取りなおすと、何本かの電話をかけて、窓ガラスの修繕やどうにもならない家具の引き取りを手配した。火曜日まる一日を、私は荒れ果てた家の修復に費やした。配達人も友人も来なかった。水曜日、新しいカーテンとソファが届き、ピアノの調律が終わり、食器棚には買いなおした皿やグラスが並んだ。だが、燃やされてしまった手紙や写真はどうにもならなかった。気がついてみると、母が手仕事で刺繍をしたテーブルクロスにも、忌々しい友人が貪欲な口を拭いたしみがはっきりと残されていた。私は父に電話をかけた。落ち着きなさい、と父は穏やかに言った。母さんはそんなことで腹を立てたりはしないよ。おまえがあのテーブルクロスを大切にしていたことはよくわかっていたはずだからね。
 木曜日、呼び鈴はやはり鳴らなかった。夜更けから猫がぐったりとしはじめ、金曜の明け方に死んだ。小さな骨壺を抱えて帰ってきてから、私はふとあの置物のことを思いだし、取りだして眺めた。相変わらずつまらない色と形をし、何の役にも立たず、悪臭を放っていた。庭土めがけて贈り物を投げつけ、私は鎧戸を閉ざした。
 土曜日、父が亡くなった。朝から曇り空だった。納棺を済ませるころ雨が降りだした。私ひとりの通夜を抱きすくめるように雨は降りつづいた。日曜、火葬場から上がる細い煙を私は傘をさして眺めていた。家に帰りついても雨は止むことがなく、鎧戸の隙間や屋根からつたいこんであらゆる家具を水びたしにした。配達人も友人も現れなかった。それからずっと雨は降りつづいた。
 ある日、まどろみからさめると、友人が笑顔で覗きこんでいた。寝台の傍らに椅子を持ってきて腰かけているのだ。私は顔をしかめた。うつらうつらとまばたきをしながら、引っ越したというのになぜ私の居場所がわかったのだろうかと考えていた。「帰ってくれ」重い口を開いて私は言った。「君の顔など見たくないのでね」
 だが、友人は相変わらずほほ笑んだままで私を苛立たせた。
「君にもらった変な置物は捨てたよ」そっけなく私は言った。「よく考えたら君は私の友人なんかじゃなかった」とも言った。
 寝返りを打った私は眼を見ひらいた。椅子に座っている彼の膝の上に、柔らかな毛のかたまりを見出したからであった。震える声で私はその名を呼んだ。三角形の耳が動き、猫が顔を上げて私を見た。
 寝台に手をついて起きあがったとき、私は友人の傍らに佇む人物に気づいた。気に入りのチョッキを着た父であった。よく知った穏やかな表情で私を見ていた。父の隣には母の姿もあった。両親は手を取りあい、ほほ笑んで私の方を見ていた。私は立ちあがり、よろめきながら近づいていった。両親の後ろには学生時代からの友人が、親戚が、大好きだった飼い犬がいた。あっという間に私はなじみの顔に囲まれて立っていた。
「君が連れてきてくれたのか」友人の方へ向き直り、声を上ずらせながら私は尋ねた。「私に会わせるために?」
 相手は何も言わずにほほ笑んでいるだけだった。「ありがとう」私は友人の首にかじりつき、肩を震わせて泣いた。「本当にありがとう。君はまちがいなく私の友人だ……」
「さあ、行こう」やがて、友人は静かにそう言った。
 愛する者たちに囲まれて部屋を出てゆくとき、私の耳は空にとどろく音を聞いた。巨大な本が閉じられるような音であった。畳む

断片