テリー・ファリッシュ「ポテト・スープが大好きな猫」のおじいさんのスープ 〜猫用レシピの考察〜

この猫の好物は、おじいさんの作ってくれるポテト・スープでした。それもおじいさんが、この雌猫を気に入っている理由のひとつです。

 じゃがいものヴィシソワーズやポトフ、おいしいですよね。パペログ給仕長のパペレオンです。

 本日は、個人的に愛してやまない「薄い文庫本」の一冊、「ポテト・スープが大好きな猫」をご紹介したいと思います。

猫の魅力を詰めこんだストーリー

 んな話です。

 あるところに、おじいさんと年取った雌猫が穏やかに暮らしていました。一人と一匹は毎日小舟で釣りに出ますが、猫は舳先に陣取るだけで魚を捕ることはしません。ネズミも鳥も捕りません。彼女の大好物は、おじいさんが作るポテト・スープなのです。

 ある冬の日、おじいさんが電気毛布を購入。猫は毛布の上に陣取り、翌朝は釣りの時間にも起きだそうとしません。仕方なくおじいさんは一人で釣りへ出ました。その後ひとりぼっちで眼を覚ました猫は――。

 気まぐれかつ超マイペースな猫の魅力がこれでもかと詰めこまれていて、猫好きにはたまらない内容でした。

 それにしても、猫がスープ(それも野菜のスープ!)を好んで飲むなんて面白いですね。いったいどんなスープなんでしょうか。記事の後半ではその謎に迫りたいと思います。

村上春樹が一目惚れして翻訳した猫の絵本

 訳者あとがきによると、この作品は村上春樹氏がアメリカの書店で偶然見つけ、一目ぼれして購入、帰宅後そのまま翻訳したんだそうです。

 邦訳は絵本バージョンと文庫本バージョンがあります。私が持っているのは文庫本のほう。

 原作が絵本ということで、すべてのページにフルカラーの絵と短い文章という構成。

 カラー印刷のためか厚手の紙が使われているので背表紙にぎりぎりタイトルが書けるくらいの厚みはありますが、全体で40ページしかなく充分に薄い。背表紙の幅いっぱいに文字を背負った、すらりとした立ち姿。薄い文庫本フェチ各位にも要チェックの本となっております。

 なお、絵本は大型で、見開きいっぱいにイラストが楽しめますので、薄い文庫本に特別な思い入れがない限りはこちらがお勧めかも。

 村上春樹氏も猫好きなことで知られ、作品にもたびたび猫が登場するので、書店で出会うや否やハートを鷲掴みにされてしまったのだろうと微笑ましい気持ちになります。

 絵がまた可愛いですね。

 猫についていえば、愛くるしくデフォルメされてはおらず、どちらかというとリアル寄りの絵柄ですが、これぞ猫という完璧なフォルム。

 少しボサボサした毛並みも愛おしいです。

料理について詳しく

考察

 さて、猫が大好きなおじいさんのポテト・スープとはいったいどんなものなのでしょうか?

 以下に考察してみます。

■田舎風の素朴でやさしいスープ

 猫とおじいさんが暮らしているのはアメリカの田舎。

 おじいさんが作るのはおそらく、伝統的で素朴な味わいのスープなはず。

■猫が食べやすく、消化しやすい

 猫が小さな舌でぺろぺろすくって飲むことを考えると、ごろごろと具材が入ったものより、ポタージュ状にするのが良さそうです。挿絵のスープを観察すると、具のようなものは見受けられず、やはりポタージュに見えます。

■肉、魚は使っていない

 物語の要は、猫がネズミも鳥も捕らず、魚釣りに行くよりも家でごろごろして、おじいさんの作ってくれるスープを食べるのが好きというところ。

 スープが肉や魚を使った豪勢なものだったら、風変わりな猫の物語の深い味わいがなくなってしまうかもしれません。

■猫の嗅覚に訴えて惹きつける

 とはいえ、猫はもともと肉食動物。

 野菜しか使われていないシンプルなスープだと、大好きなおじいさんの愛情が隠し味だとはいえ、あんまり食欲をそそられない可能性も。

 優れた嗅覚に訴える工夫が必要でしょう。

■猫が安全に食べられる素材のみを使用する

 言うまでもなく、猫には人間と違って食べられない食材が多々あります。

 スープによく使われるものだと、ネギ類、牛乳(乳糖不耐症の猫が少なからずいるため)、アボカド、ほうれん草あたりは避けたほうが無難でしょう。

 健康を考えると、塩などを使った濃い味付けやスパイスの使用も考えもの。

■熱すぎない

 もちろん猫舌への配慮も必要です。

レシピ

 前項での考察を踏まえて、レシピを作成してみました。

【免責事項】本項でご紹介するのは、物語を新しい角度から楽しんで頂くために作成したジョーク・レシピです。実際に猫へ与えることは推奨していません。あなたの大切な猫には、安全の確認されたキャット・フードを与えて下さい!

【材料】

  • じゃがいも・・・・大きめ1つ
  • 豆乳・・・・・・・100cc
  • 水・・・・・・・・適量
  • オリーブオイル・・少々

【作り方】

  1. じゃがいもの皮を剥き、小さめの角切りにして水にさらす
  2. 鍋に入れ、ひたひたの水でやわらかくなるまで10〜15分茹でる
  3. 茹でたお湯はそのまま、熱いうちにポテトマッシャーやすりこぎで潰す
  4. 豆乳を少しずつ加えて伸ばす
  5. 大きめの浅皿に移し、オリーブオイル少々を垂らす
  6. 少し冷ましてできあがり

【工夫ポイント】

  • 肉や魚を使わず、主な材料はじゃがいもと豆乳だけの素朴でシンプルな味わい。物語の後半でおじいさんが猫にポテト・スープを作る場面の挿絵を見ると、皮を剥いたじゃがいものほか、ミルクか小麦粉のような容れ物が見えますので、イラストとも整合します。
  • 猫はビタミンAやビタミンDの豊富な油脂が大好き。仕上げにオリーブオイルを垂らすことで猫の嗅覚を刺激し食欲アップ。
  • 乳糖不耐症の猫に配慮して、牛乳やバターといったラクトースを含む乳製品を避け、豆乳でまろやかな味わいに。
  • 猫が食べやすいポタージュ仕立てにし、ヒゲが皿の縁に当たって不快な思いをしないよう大きめの浅い皿で提供。
  • 少し冷ましてあれば猫舌でも安心。
  • 猫用を取り分けたあとに塩やお好みでコンソメを加えて味を調節すれば、おじいさんもおいしく食べられる。

おまけ:村上春樹氏による見どころ案内

 以上、猫の大好きなおじいさんのポテト・スープの考察でした。

 訳者あとがきとして付されている村上春樹氏のコメントが、読む楽しみをさらに深めてくれます。

 おじいさんのかぶっている帽子、原文での喋り方から感じられる人柄、ダイヤル式の電話や猫の毛並みの色……。郵便ポストの横に置かれたトイレの便座、気づかなかったなあ。

こんな二人がテキサスの田舎で、温かいポテト・スープを食べながら、のんびりと肩を寄せ合って暮らしているわけです。いいですよね。ひょっとしたら、僕もこんな晩年を送ることになるのかもしれないな、とふと考えたりしてしまいます。

テリー・ファリッシュ「ポテト・スープが大好きな猫」(講談社文庫)訳者あとがき

 2023年に6年ぶりの新作長編を発売、たちまち桁違いの重版となった村上春樹ですが、今でもその生活には猫がいるのかなあ。

 猫好きの方、特に「年取った雌猫」や「茶トラの猫」が好きな方にぜひおすすめしたい一冊です。もちろん、「薄い文庫本」マニアの方にも。

 最後までお付き合い頂きありがとうございました。それではどうぞ、召し上がれ。

パペログ給仕長 パペレオン