タグ「詩」を含む投稿[10件]
幸運 #詩
冷たい汗に目醒めて
こみあげる胆汁の床へ手をつく
むくんだ春の朝
無痛に痺れた日差しの底で
清涼な液体の管が私を繋留している
キャスターつきの点滴台ではなく
いまにも
窓の外へ揺れはじめるべき夏の影へと
冷たい汗に目醒めて
こみあげる胆汁の床へ手をつく
むくんだ春の朝
無痛に痺れた日差しの底で
清涼な液体の管が私を繋留している
キャスターつきの点滴台ではなく
いまにも
窓の外へ揺れはじめるべき夏の影へと
車窓から #詩
あおい光が夜の奥をよぎる
ひとつ
息をする間に
またひとつ
かつて私を呼びとめたもの
朝に枯れる花のように
早くも希望の残り香を立てている
夜に属する光
人工の。
今でも私は
どうしようもなく置いてくる
ガラスを曇らす雨滴と
もはや見分けのつかぬひと雫を
闇の彼方にまたたく
踏切のあおい光のもとへ
あおい光が夜の奥をよぎる
ひとつ
息をする間に
またひとつ
かつて私を呼びとめたもの
朝に枯れる花のように
早くも希望の残り香を立てている
夜に属する光
人工の。
今でも私は
どうしようもなく置いてくる
ガラスを曇らす雨滴と
もはや見分けのつかぬひと雫を
闇の彼方にまたたく
踏切のあおい光のもとへ
眠り #詩
太陽光発電のパネルと
キャベツ畑で大地を覆って
わたくしたちは眠りにつきます
暗く涼しい土の中で
目を閉じて横たわって
また起きられたらいいけれど
わからないから手を繋いで
誰も住まない団地のベランダ
洗濯物がはためいています
電車は律儀に基地へと帰り
最後の水で洗われました
わたくしたちがつくったもの
愛したもの
のこしたかったもの
かいた地図
わたしにだけ朝が来てしまったらどうしよう
土から這い出て、真っ暗闇に
弱った手足でベランダへよじ登り
誰かのバスタオルで体をつつんで
裸足にキャベツ畑の土を踏む
確かな冷たさを指先に見つけ
外葉の夜露に喉を鳴らして
ひと息ついて思うでしょうか
とても、とても静かだと
その日を思ってわたしはさびしいのです
眠りにつく前からはやくも
まぶたを夜露が濡らすほど
太陽光発電のパネルと
キャベツ畑で大地を覆って
わたくしたちは眠りにつきます
暗く涼しい土の中で
目を閉じて横たわって
また起きられたらいいけれど
わからないから手を繋いで
誰も住まない団地のベランダ
洗濯物がはためいています
電車は律儀に基地へと帰り
最後の水で洗われました
わたくしたちがつくったもの
愛したもの
のこしたかったもの
かいた地図
わたしにだけ朝が来てしまったらどうしよう
土から這い出て、真っ暗闇に
弱った手足でベランダへよじ登り
誰かのバスタオルで体をつつんで
裸足にキャベツ畑の土を踏む
確かな冷たさを指先に見つけ
外葉の夜露に喉を鳴らして
ひと息ついて思うでしょうか
とても、とても静かだと
その日を思ってわたしはさびしいのです
眠りにつく前からはやくも
まぶたを夜露が濡らすほど
encouragement #詩
死者は毎朝あたらしく生まれる
陽気な鳥のようにさえずりながら
私の朝を飛び回る
さあ湯を沸かせ、コーヒーを淹れろ
ねむたい眼をこすって
ほら、始まりは大概ひどいものさ
昼のあいだ死者は戸口に立って
遠い街並みに目をみはっている
ときおり振り向くのは、ふと愉快になったからだ
あのときは実におもしろかったな
そう思わないか? 忘れてしまったのか?
ひかる小石を集めたじゃないか?
夜更け、白い花々に埋もれながら
死者の青ざめたくちびるが
影の天井につづる歌へ、さあ耳をすまし
水底の響きに弱々しい鼓動を横たえて
眠れ、
不安な夢からさめた幼子のように
かわいた眼をふたたび涙でいっぱいにして。
死者は毎朝あたらしく生まれる
陽気な鳥のようにさえずりながら
私の朝を飛び回る
さあ湯を沸かせ、コーヒーを淹れろ
ねむたい眼をこすって
ほら、始まりは大概ひどいものさ
昼のあいだ死者は戸口に立って
遠い街並みに目をみはっている
ときおり振り向くのは、ふと愉快になったからだ
あのときは実におもしろかったな
そう思わないか? 忘れてしまったのか?
ひかる小石を集めたじゃないか?
夜更け、白い花々に埋もれながら
死者の青ざめたくちびるが
影の天井につづる歌へ、さあ耳をすまし
水底の響きに弱々しい鼓動を横たえて
眠れ、
不安な夢からさめた幼子のように
かわいた眼をふたたび涙でいっぱいにして。
終戦 #詩
あれは三万五千年前に
噴き出した火焔の白い熾
大地のきずはいつしか治り
あれは四千年前に
運行していた星の軌道
指さされたその彼方で
あれはいつだったでしょうか
鉄の翼がのこした痕
巨大な悪意の膨張
立ち止まって
口あけて
指先離れた風船を
匿っている白い城砦
いつまでも、いつまでも
scratch, scratch, scratch
いたずら者の小鳥が石壁にとまり
短い尾羽をふるわせている
平気です
平気でないでしょうに
scratch, scratch
白銀の画鋲が頭ひからせて
画用紙をひろびろと支えている
待つならば忍耐強く
絵筆をめいめい携えて
群れなし降りてくる亡霊は
あんまりゆっくりなものですから
刻みつけられては揺れる薄皮
フリップブックでさあ御覧じろ
あれはご存じ
これはいかが
知っていますもちろん
いつのことだったでしょうか
scratch, scratch 時の点描
潤んだ目玉のつけた引っ掻き傷
きっと私もそのひとつです
scratch, scratch
空の城砦から
小鳥が今にも落ちてゆきます
あれは三万五千年前に
噴き出した火焔の白い熾
大地のきずはいつしか治り
あれは四千年前に
運行していた星の軌道
指さされたその彼方で
あれはいつだったでしょうか
鉄の翼がのこした痕
巨大な悪意の膨張
立ち止まって
口あけて
指先離れた風船を
匿っている白い城砦
いつまでも、いつまでも
scratch, scratch, scratch
いたずら者の小鳥が石壁にとまり
短い尾羽をふるわせている
平気です
平気でないでしょうに
scratch, scratch
白銀の画鋲が頭ひからせて
画用紙をひろびろと支えている
待つならば忍耐強く
絵筆をめいめい携えて
群れなし降りてくる亡霊は
あんまりゆっくりなものですから
刻みつけられては揺れる薄皮
フリップブックでさあ御覧じろ
あれはご存じ
これはいかが
知っていますもちろん
いつのことだったでしょうか
scratch, scratch 時の点描
潤んだ目玉のつけた引っ掻き傷
きっと私もそのひとつです
scratch, scratch
空の城砦から
小鳥が今にも落ちてゆきます
骨つき肉 #詩
いつもの精肉売り場
あなたの肩肉がパッケージされていた
うす切りの
二割引きで
買ったけれど、台所
煮ていいのか
焼けばいいのか
思わず冷凍庫にしまいこんで
息をついた
明日は売っていますか
あなたのもも肉、すね肉、ばら肉
タンにホルモン、目玉、ハツ
うす濁りの水をシンクにあけて
今日も新しくしてやります
花弁が色褪せるより先に
根が腐るなんて、怠惰だろうから
あれから何度かよっても
精肉売り場にあなたは見当たらず
わたしは手ぶらで帰る
そうしてだんだん痩せる
やはり食わねばならぬのか
冷凍庫あけて
そっけないピンク色した
うす切りの二割引きの
あなたに下味をつけて
フライパンでしっかり焼いて
食べましょう、食べるとも
だから明日こそは売っていますか
あの日わらいながら動かした
大きなあなたの影
暗い、名前のない
ひとのかたちした骨つき肉
いつもの精肉売り場
あなたの肩肉がパッケージされていた
うす切りの
二割引きで
買ったけれど、台所
煮ていいのか
焼けばいいのか
思わず冷凍庫にしまいこんで
息をついた
明日は売っていますか
あなたのもも肉、すね肉、ばら肉
タンにホルモン、目玉、ハツ
うす濁りの水をシンクにあけて
今日も新しくしてやります
花弁が色褪せるより先に
根が腐るなんて、怠惰だろうから
あれから何度かよっても
精肉売り場にあなたは見当たらず
わたしは手ぶらで帰る
そうしてだんだん痩せる
やはり食わねばならぬのか
冷凍庫あけて
そっけないピンク色した
うす切りの二割引きの
あなたに下味をつけて
フライパンでしっかり焼いて
食べましょう、食べるとも
だから明日こそは売っていますか
あの日わらいながら動かした
大きなあなたの影
暗い、名前のない
ひとのかたちした骨つき肉
初恋 #詩
スプーンにのせた心臓が
どくどく
震えていました
陽の透けた髪
かすかな空調の音
ざわめき、街の
溶けてしまいたかった
夏よりもはやく
一秒後にきっと
氷が鳴るんだろうって
どうしたわけか
わかっていたから
スプーンにのせた心臓が
どくどく
震えていました
陽の透けた髪
かすかな空調の音
ざわめき、街の
溶けてしまいたかった
夏よりもはやく
一秒後にきっと
氷が鳴るんだろうって
どうしたわけか
わかっていたから
夏の解剖 #詩
西瓜の種を指先で
ほじくり出して白い皿に落とす
硬質なピアニシモの納骨
樹の影が揺れる
また手をよごす
うすく赤く甘く
唇は濡らそう、果汁に汗に
貪欲なまでの無頓着さで
ふと
思い出しただけのように
さりげない調子で
しばらく前に席を立った
あなたの分にもほら、塩をひとつまみ
百万年前の海水を
かわかした
ものです。
西瓜の種を指先で
ほじくり出して白い皿に落とす
硬質なピアニシモの納骨
樹の影が揺れる
また手をよごす
うすく赤く甘く
唇は濡らそう、果汁に汗に
貪欲なまでの無頓着さで
ふと
思い出しただけのように
さりげない調子で
しばらく前に席を立った
あなたの分にもほら、塩をひとつまみ
百万年前の海水を
かわかした
ものです。
#詩 「浜辺にて」
まだらに蒼ざめた夜の層に
雲のふちはわずかに明るく
眠りの彼方へと大気が潤む
曙光の乳を含ませるように
いっさいの希望は
あるということだけが性質なのだ
たとえ打ち捨てられていても
引き裂かれ、血を流し
むせび泣こうとも
波の下に砕かれ光る心よ
この目を奪うおまえの名は月
太陽の産声と共に夜へ咲き
祝福の墓碑を照らす光芒